シリコーンハイドロゲル素材とは?特徴を解説
ソフトコンタクトレンズに使われている「シリコーンハイドロゲル」という素材の名前を聞いたことはありますか? 普段ソフトコンタクトレンズを使っている方は、どこかで聞いたことがあるかもしれませんが、この素材がどのような特徴を持っているか知っている方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、シリコーンハイドロゲル素材について、従来の素材との違いやメリット・デメリットを解説します。
作成日: 2025/10/14 更新日: 2025/10/14

目次 :
シリコーンハイドロゲル素材とは?
シリコーンハイドロゲル素材とは?
ソフトコンタクトレンズに用いられるシリコーンハイドロゲル素材とは、シリコーン素材とハイドロゲル素材を組み合わせたものです。
シリコーン素材はガス透過性(酸素透過性)が高いとされています1)。つまり、酸素が通りやすく、装用中も多くの酸素が目に届きます(酸素透過性の大切さは次項で説明します)。一方、ハイドロゲル素材は「ハイドロ=水」と「ゲル=液体を含みつつ半固体または個体の状態になったもの」という言葉の意味の通り、水分とよくなじみ、やわらかく、角膜にフィットする特徴があります2)。
この2つの素材を組み合わせたものが、シリコーンハイドロゲル素材です。カラーコンタクトレンズ(カラコン)にも使われることがあります2)。
従来の製品との違い
シリコーンハイドロゲル素材は、従来のソフトコンタクトレンズとどう違う?
ハイドロゲル素材とは、従来のソフトコンタクトレンズに用いられている素材の総称です1,2)。ハイドロゲルとシリコーンハイドロゲルでは、酸素の通りやすさに違いがあらわれます。
角膜には血管がないので、代謝に必要な酸素の大半は空気中から取り込んでいます。コンタクトレンズを装用すると、レンズが角膜を覆うため、角膜に届く酸素の量が制限されます3)。角膜の酸素不足が続くと、浮腫(角膜が水分を含んで膨らんでしまう状態)やびらん(角膜の表面が部分的にとれた状態)といった目のトラブルにつながることがあるため2,3)、コンタクトレンズを安全に使用するには「酸素透過性(酸素の通りやすさ)」が重要になるのです。
素材により、目に届く酸素の量は変わります。ハイドロゲルを使った従来のソフトコンタクトレンズは、レンズ内の水を介して角膜に必要な酸素を届けます2)。したがって、酸素をより多く目に届けるためには、レンズが含む水分量(含水率)を上げる必要があり2)、そのために様々な工夫が施されています。また、目に届く酸素はレンズが薄い方が多くなるため、薄いレンズを作るための工夫も行われています2)。
しかし、ハイドロゲル素材の場合、含水率を高めると水分が蒸発しやすかったり、乾燥感が出やすくなったりすることがあります1,2)。また、レンズを薄くすると破れやすくなるデメリットもあります1,2)。
シリコーンハイドロゲル素材のレンズの場合、酸素はレンズの水分を介してだけでなく、レンズ素材を直接通過しやすくなるため、含水率を高めなくても、より多くの酸素が目に届きます1,2)。

酸素透過率とは?
酸素透過率は、コンタクトレンズ装用中にどれくらいの酸素が目に届くかを示す指標で、Dk/t値で表されます。レンズ素材の酸素の通しやすさを示す酸素透過係数(Dk値)をコンタクトレンズの厚み(t)で割った値で、数値が高ければ、レンズが酸素を通しやすいことをあらわします4,5)。
ソフトコンタクトレンズに求められる酸素透過率の目安である「Holdenの基準5)」によると、角膜が浮腫(むくみ)を生じないために必要なDk/t値は、終日装用タイプで24.1*1以上、連続装用タイプで87.0*1以上とされています。なお、Dk/t値が約80を超えると、数値が高くても目に届く酸素の量は変わらなくなります6)。
*1:×10-9 (cm・mLO₂ /sec・mL・mmHg) 測定条件35℃ (-3.00Dの場合)
~アキュビュー® 製品の酸素透過率~
シリコーンハイドロゲル素材のアキュビュー® 製品の酸素透過率(Dk/t値)*2は、以下の通りです。
- ワンデー アキュビュー® オアシス® MAX:121
- ワンデー アキュビュー® オアシス® :121
- ワンデー アキュビュー® トゥルーアイ® :118
- アキュビュー® オアシス® :147
*2:×10-9(cm・mLO₂ /sec・mL・mmHg) 測定条件35℃(-3.00Dの場合) Polarographic method, boundary and edge corrected.
素材のメリット
シリコーンハイドロゲル素材のメリット
シリコーンハイドロゲル素材には、主に3つのメリットがあります。
目の負担が少ない
上で述べたように、シリコーンハイドロゲルは酸素が通りやすい素材であるため1,2)、酸素不足やそれに伴うトラブルを起こしにくい特長があります。
レンズの形状が良好に保たれる
シリコーンハイドロゲルのコンタクトレンズは、含水率が低い傾向にあるためハイドロゲル素材のものよりも硬いとされています1,7)。そのため、シリコーンハイドロゲル素材だと、形が変化しにくい・崩れにくいことが知られています2)。発売当初のシリコーンハイドロゲルのレンズは素材が硬かったため、目のトラブルを引き起こすことがありました1,7)。今は、やわらかいシリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズも使われています1,7)。
コンタクトレンズの注意点
シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズの注意点
まとめ
まとめ
シリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズは、酸素透過率の高さが特長です。
ただし、自分の目に合わないレンズを使い続けたり、レンズのケアを怠ったりすると目のトラブルにつながる可能性もあるため、眼科医に処方してもらい、正しくご使用ください。
1) 日本コンタクトレンズ学会. コンタクトレンズ診療ガイドライン. 日眼会誌. 2014; 118(7): 557-591.
2) 久保田慎著・畑田豊彦監修. おもしろサイエンス コンタクトレンズと眼鏡の科学. 日本工業新聞社, 2018, p.53-59.
3) 糸井素純, 稲葉昌丸, 佐野研二, 工藤昌之, 針谷明美. コンタクトレンズ眼障害 ひと目でわかるトラブルシューティング(糸井素純, 稲葉昌丸編). 中山書店, 2006, p. 47-49, 68-69, 74-79, 144-149, 184-185, 188-189.
4) 濱野孝. コンタクトレンズ Ad Libitum 改訂第2版(大橋裕一ほか編). 2004, p.159-160.
5) Holden BA, et al.:Invest Ophthalmol Vis Sci. 1984; 25(10): 1161-1167.
6) Johnson & Johnson VISION CARE, INC. データ.
7) 二宮さゆり. 視覚の科学. 2021; 42(4): 80-85.