近視と遠視の違いとは?
子どもにも見られる症状と予防法・矯正方法について
知っていそうで意外と知らない、近視と遠視。具体的にどのような目の状態を指すのかご存知でしょうか?近視も遠視も屈折異常の1つですが、症状や見え方が違います。この記事では、それぞれの仕組みや見え方、矯正方法の違いについて解説します。
作成日:2022/12/13 更新日:2025/12/03

近視と遠視の仕組みの違い
「ものが見える」とは、目に入ってきた光をスクリーンの役割をする網膜に映し出し、そこに映った像が神経を伝わって脳に運ばれ、脳の中で処理することで得られる感覚のことです。見たいものに焦点(ピント)が合っていない状態だと、ぼやけた像が網膜に映し出され、その情報がそのまま脳へ送られるため「ぼやけて見える」といった症状が起こります。網膜上でぼやけた像にならないようにするには、角膜(黒目)や水晶体(目の中のレンズ)を光がきれいに通過し、なおかつ1点に集まらなければなりません。
この光が1点に集まったところを「焦点」といい、網膜上に焦点がある状態を「正視」といいます。一方、焦点の位置が網膜より手前にある状態を「近視」、網膜の後ろにある状態を「遠視」といいます。
近視は角膜や水晶体の屈折力(光を曲げる力)が強すぎるか、眼軸(目の奥行き)が長すぎることが原因で生じ、遠視は角膜や水晶体の屈折力が弱すぎるか、眼軸が短すぎることが原因で生じます。近視も遠視も網膜からずれた焦点を網膜上に移動させるために、眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正を行います。

近視の仕組みと原因
上記「近視と遠視の仕組みの違い」にある通り、近視は焦点の位置が網膜より手前にある状態です。もう少し詳しく説明すると、近視は、角膜や水晶体の屈折力に対して相対的に眼球が前後方向に長い(眼軸長の延長)ことが原因です。眼軸長が1 mm延長すると、近視が約3 D強まるとされています1 )。
なお、ここでのD(ジオプター)は近視の強さを数値化したときの単位です。
・近視の原因は遺伝や環境的な要因が大きい
近視は世界的に増加しており、その原因は「遺伝」と「環境」から説明できます。
まず、遺伝要因です。両親が高度近視の場合、子どもの近視リスクは約11倍に高まります2) 。一卵性双生児で屈折度数が似通うことも報告されていることから、生まれつきの体質が強く影響すると考えられています3-6 )。
一方、環境要因も重要です。長時間の勉強や読書、スマートフォンの使用といった、20cm未満の近見作業は近視を進めるとされています3,5) 。屋外活動の時間が短いことも、発症リスクを高めます3) 。
また、近視は大きく「単純近視」と「病的近視」に分けられます。単純近視は眼軸長の伸びによって生じるもので、眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能です。いわゆる「学校近視」もこれにあたり、矯正すれば生活への影響は軽度です。一方、病的近視は網膜や視神経に病的変化を生じることが特徴で、網膜の萎縮や黄斑変性、出血、網膜剥離などを合併しやすくなります。矯正しても視力改善が難しく、失明につながる場合もあります7) 。
遠視の仕組み
上記「近視と遠視の仕組みの違い」にある通り、遠視は焦点の位置が網膜の後ろにある状態です。原因として、眼軸長が短いことや、角膜・水晶体の屈折力が弱いことが挙げられます。
関連記事リンク:遠視とは?見え方の仕組みや原因を解説
老視(いわゆる老眼)の仕組み
人の目には、水晶体を厚くして屈折力を高めることで網膜上に結像できる(ピントが合う)調節力が備わっていますが、残念ながらこの調節力は加齢に伴って低下します。これが老視(いわゆる老眼)で、特に調節力を必要とする近くが見づらくなってしまいます。
遠視と老眼の違い
遠視の程度にもよりますが、遠視と老眼は「近くのものがはっきり見えない」状態を生じるため混同されやすいです。遠視が強くなると、遠くも近くも見にくくなります。一方、老眼は遠くが見えている状態だと、近くが見にくくなります。
その原因には明確な違いがあります。遠視は、眼球の構造的な要因による屈折異常です。一方の老眼は加齢による変化で、前述の通り、調節力そのものの低下が原因です。
近視と遠視の症状・見え方の違い
近視の症状・見え方
近視は、裸眼だと遠くが見えませんが、近くのものは見える目の状態です。ただし、近くが見えるといっても、その人の近視の程度によって見える距離は異なります。例えば裸眼でも、弱い近視であれば、1m以内のものはよく見えますが、強い近視であれば10cm以内のものしか見えない、という状態になります。いずれの場合も、近視の程度により決まる「ピントが合う一番遠い距離」よりも遠くのものはぼやけて見える、という症状がおこります。このように、近視の程度が強くなれば、ピントが合う距離がだんだんと目の近くになり、それよりも遠くのものが見えにくくなります。
関連記事リンク:近視とは?見え方の仕組みや原因・予防法を解説

・近視のセルフチェックリスト
以下の項目は、近視のときに出る症状です。セルフチェックをしてみましょう。
□ 遠くの看板や黒板の文字がぼやける
□ 目を細めると見やすくなる
□ テレビやスマホを近くで見がちになる
□ 頻繁に頭痛や目の疲れを感じる8)
遠視の症状・見え方
遠視は網膜よりも後ろで焦点を結ぶため、近くのものも、遠くのものも見えづらくなります。遠視の目では、網膜の後ろに焦点がありますが、弱い遠視の人であればこの焦点を前方へ移動させることができます。この働きを「調節」と呼びますが、この調節により網膜の後ろに焦点がある遠視の状態から、網膜上に焦点を移動させることで遠くのものが見えるようになります。近くを見るときは、さらに調節をしないと見えないため、遠視の方は正視(状態)の方よりも、多くの調節をして近くを見ていることになります。従って、遠くも近くも常に調節を働かせることになるため、目が疲れやすくなってしまいます。
関連記事リンク:遠視はどんな見え方になるの? 子どもの遠視にも注意を

近視と遠視の矯正の仕組みの違い
近視や遠視は眼鏡やコンタクトレンズで矯正することが一般的です。
どちらの場合も焦点の位置を前か後ろにずらし、網膜上に焦点が来るよう、焦点の位置の調整を行うレンズを使います。このレンズを球面レンズ、といい、球面レンズは歪みのない球体をしているレンズで、全方向に均等に光を曲げる力を持っています。
近視の矯正
近視の矯正は、凹レンズ(マイナスレンズ)を使います。凹レンズは、光を広げる役割をするレンズです。近視は眼軸に対して相対的に目の屈折力が強いために焦点が網膜の手前にできてしまう状態ですので、目に入る前の光をある程度広げてあげることで、網膜上へと焦点を移動させることができます。

遠視の矯正
遠視を矯正する場合は、凸レンズ(プラスレンズ)を使います。凸レンズは光を集める役割をするレンズです。遠視は眼軸に対して相対的に目の屈折力が弱いために焦点が網膜の後ろにできてしまう状態ですので、目に入る前の光をある程度集めてあげることで、網膜上へと焦点を移動させることができます。

近視も遠視も網膜上に焦点を移動させることで、はっきりとものが見えるようになります。この状態になるために必要なレンズの種類と強さを調べる検査を、屈折検査といいます。眼鏡やコンタクトレンズの度数は、屈折検査の結果によって決定されます。網膜上に焦点が来る状態を作ったときにどのくらいの視力があるのかは、人によって異なります。
近視進行への対策9)
近視は、遺伝と共に環境も影響してきます3-7)。遺伝要因は変えられませんが、環境を調整することで近視の進行を抑えるよう、対策ができます。2つご紹介しましょう。
- 勉強や読書、デジタルデバイスの使用の際には、見ようとするもの(対象)から30cm以上目を離しましょう。離れれば離れるほど良いとされています。
- 20-20-20ルール:「20分画面を見続けたら目を離し、20フィート(約6m)離れたものを、20秒ほど見る」というシンプルな方法です。
似た対策に、「デジタル端末の画面を30分見たら、20秒以上目を離し、なるべく遠くを見る(継続して見ない)」というものもあります。ちなみに、デジタル端末画面を30分以上見続けると、近視になりやすいとされています。
近視の進行を抑える目的で、諸外国では屋外活動が奨励されている地域があります。
まとめ
近視は網膜より手前で焦点が結ばれるため、近くはよく見えるものの、遠くが見えづらくなります。一方、遠視は、網膜より後ろで焦点を結ぶため、調節しなければ近くも遠くも見えづらくなります。
近視、遠視、そして乱視はいずれも屈折異常の1つですが、見え方や矯正に用いるレンズは異なります。ぼやけているのに、自己判断で放置すると、眼精疲労をはじめとするさまざまな症状に発展する恐れがあります。眼科医に相談して眼科での検査、診断を受け、自分に合った治し方を眼科医に相談し、適切な矯正レンズを処方してもらうようにしましょう。
<参考資料>
(全体)松本 富美子 他 編:「視能学エキスパート 光学・眼鏡」 第2版 医学書院, 2023
1) 佐柳香織:日本医事新報 5283: 45, 2025
2) Tang SM, et al.:Am J Ophthalmol 218:199-207, 2020
3) 公益社団法人日本眼科医会: 気をつけよう! 子どもの近視.
https://www.gankaikai.or.jp/health/57/index.html
4) Katie M. William, et al: Ann Eye Sci 2:6, 2017
5) 三木 淳司監修:「子どもの目を守る本」第1版 講談社, 2022
6) Zhang X, et al.: Exp Ther Med 9(6):2420-2428, 2015
7) 日本近視学会:病的近視とは?
https://www.myopiasociety.jp/general/about/pathological.html
8) 「めまもり」プロジェクト:目のトラブル 目の奥が痛い場合に考えられる病気は?原因や対処法をご紹介(宇津見義一先生監修)
https://www.acuvue.com/ja-jp/memamori/eye-health/313/
9) 公益社団法人日本眼科医会, 文部科学省:ギガっこデジたん! 活用マニュアル 改訂1.2版











