乱視の見え方とは?文字や夜間の見え方の違いや仕組みも医師が解説
作成日:2024/11/13 更新日:2025/05/20

乱視とは
乱視とは、角膜や水晶体の歪みにより、光が一点に集まらず、像がぼやける状態のことです。通常、光は角膜や水晶体で屈折し、網膜上の1点に焦点を結ぶことで鮮明な視覚情報として脳に伝えられます。しかし、乱視があると光が1点にあつまらず視界が不明瞭になってしまい、遠くや近くなどの距離に関わらず「視界がぼやける」、「二重に見える」などの症状が現れます。これが「乱視」という状態です。ほとんどの人に程度の差はあれ乱視があり、極めて軽度であれば視力への影響は少ないものの、未矯正の乱視は視力低下や眼精疲労を引き起こす可能性があります。
乱視の見え方
乱視がある人は、どのように見えているのでしょうか。以下に、正視(屈折異常がない状態)、近視、乱視のそれぞれについて、見え方のイメージを示します。

健康な若い正視の人では遠くも近くもよく見えます。ところが近視の場合は手元にピントが合っているため、近くのものははっきり見えますが、遠くのものがぼやけてしまいます。一方、乱視の場合は常にピントが合っていないため、見たいものが近くにあっても遠くにあっても、ぼやけたり、二重に見えたりします。
日常生活での乱視の見え方
乱視は角膜や水晶体に歪みがある状態であり、単に「乱視」という場合は、この「正乱視」を指すことが一般的です。ここでは乱視の中でも特に多い、「正乱視」の日常における見え方についてご紹介します。
乱視の場合の文字の見え方
乱視とは、角膜や水晶体が歪んでいると説明しましたが、正乱視では角膜や水晶体がラグビーボールのような形をしています。このラグビーボールのような形のレンズが細長く縦に置かれている状態を「倒乱視」、横向きに置かれている状態を「直乱視」、斜めに置かれている状態を「斜乱視」といい、見え方もそれぞれ異なります。
文字は縦・横・斜めの線の組み合わせでできているので、乱視があると見えにくいと感じる事があります。例えば新聞、本、道路標識、看板などに似たような文字があり、区別がつきにくいと感じる、などが事例として挙げられます。


乱視の場合の夜間の見え方
乱視の人は明るい場所に比較して、暗い場所や夜間のほうが、より視界がぼやけて見えづらくなる、といわれています。
暗いところでは、たくさんの光を目に入れようと、瞳孔が開きます。そのため、光の入る幅が広がることで、よりぶれが大きくなり、乱視の症状を自覚しやすくなります。昼間は気にならなかったのに、夕方や夜間に街灯や信号がにじんだり、2重に見えたりする場合は、乱視があるかもしれません。

乱視の検査方法
目に屈折異常(近視、遠視、乱視)がある場合は、屈折異常の種類や程度を調べる”屈折検査”を行います。屈折検査には大きく分けて「他覚的屈折検査」と「自覚的屈折検査」があり、いずれの検査でも乱視の状態が評価できます。他覚的屈折検査とは、専用の機器を使って目の屈折状態を客観的に測定する方法のことです。一方、自覚的屈折検査とは検査を受ける本人の判断や応答をもとに屈折状態を調べる方法です。
乱視と診断された後はどうすればいいの?
乱視の多くは正乱視と呼ばれるタイプで、眼鏡、乱視用ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズで矯正することでよく見えるようになります。軽い乱視であれば乱視を矯正しなくてもある程度見えるため、そのままにしてしまいがちですが、頭痛、眼精疲労や肩こりの原因となることがあります。また、円錐角膜のような進行性の病気の可能性もあるので、定期的に眼科を受診し、乱視の有無や程度などに変化がないかを検査してもらいましょう。
乱視の矯正方法
眼鏡の使用
眼鏡は、目に直接触れず衛生的で装用の負担が少なく、手入れが容易なため最も手軽な矯正方法です。また、製作範囲が広く乱視の軸に制限がないため、特殊な軸の乱視にも対応しやすいというメリットがあります。しかし、乱視が強い場合には視界の歪みが生じやすく、視線を移動させると像がブレることがあり、特に度数が強いと違和感を感じやすいです。また、フレームによる視野の制限があるため、スポーツ時には不便なこともあり、汗や雨でレンズが曇ることもありますので、適切な眼鏡を選ぶためには眼科を受診しましょう。
トーリックソフトコンタクトレンズの使用
トーリックソフトコンタクトレンズとは、乱視の矯正も可能な特殊なデザインのソフトコンタクトレンズです。
これらのレンズは、乱視の度数や方向に合わせて設計されており、乱視眼であっても視界を明瞭に保つことができます。また、眼鏡のような視野の制限がなくスポーツ時にも安定して使用できるというメリットがあるため、アクティブなライフスタイルを送る人には、眼鏡よりも快適で便利な選択肢となります。一方、装用感やフィッティングが重要であり、製作範囲も限られているため、適切なレンズを選ぶためには眼科を受診しましょう。
ハードコンタクトレンズの使用
ハードコンタクトレンズはその名前通り素材が硬いレンズです。ハードコンタクトレンズは硬く、角膜のうえに乗せても歪まず、乾燥による変形も生じにくいです。そのため、他の手法に比較して視力が安定しやすく、視力矯正効果が高く、ソフトコンタクトレンズや眼鏡では矯正困難な不正乱視も矯正可能というメリットがあります。しかし、装用初期の異物感があり慣れるまでに時間がかかる場合があること、装用中にズレることもあり、特にスポーツ時には外れるリスクがあるため注意が必要です。適切なレンズを選ぶためには眼科を受診しましょう。
まとめ
一言に乱視といっても、乱視の種類や程度は個人差が大きく、見え方や症状も人によって大きく異なります。また、対処方法もそれぞれメリット・デメリットがあるため、目の状況やライフスタイルに応じて選択することが好ましいです。まずは眼科を受診して、自分の乱視の状態を正確に調べてもらいましょう。
<参考資料>
・公益財団法人 日本眼科学会
・公益社団法人 日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/28/index.html
・松本 富美子 他 編:「視能学エキスパート 光学・眼鏡」 第2版 医学書院, 2023
監修

道玄坂糸井眼科医院 副院長
糸井 素啓 先生
2010年に東京医科大学を卒業後、2012年に京都府立医科大学眼科学教室に入局。
同年より京都府立医科大学附属病院の円錐角膜・コンタクトレンズ外来を担当し、診療や研究に従事し、2021年に京都府立医科大学大学院 視覚再生外科学を修了。
2017年より道玄坂糸井眼科医院の副院長として診療に携わり、2022年にはさらなる研究の発展を目指し、University of New South Walesへ留学。2024年に帰国後、同大学のVisiting Fellowに就任し、引き続き道玄坂糸井眼科医院の副院長として診療と研究に取り組んでいる。